
産業現場において、熱エネルギーをいかにコントロールするかは、生産コストの削減や設備の長寿命化に直結する極めて重要な課題です。この課題の解決策のひとつとして近年注目を集めているのが「高性能断熱材」です。
一般的な断熱材よりも断熱性能に優れる高性能断熱材は、単に熱を遮るだけではなく、薄型化によるスペースの有効活用やCO2排出量の削減など、さまざまな価値をもたらします。
この記事では、工業用の高性能断熱材について、その定義や特徴といった基本知識から、高性能断熱材の選定時のポイントまでをわかりやすく解説します。省エネルギー化やカーボンニュートラルへの対応が求められる現代において、最適な断熱ソリューションを検討する際の参考としてご覧ください。
【工業用】高性能断熱材とは何か
「高性能断熱材」と聞くと、住宅の基礎や壁、床に使用される発泡ウレタンフォームや押出発泡ポリスチレンフォームなどを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、本記事でご紹介するのは家用の断熱材ではなく、工業炉や熱処理設備などで使用される「工業用」の高性能断熱材です。
ここではまず、工業用途における高性能断熱材の基本的な知識について解説します。
高性能断熱材とは何か
高性能断熱材とは、一般的な断熱材よりも熱を伝える力が極めて低い(熱伝導率が非常に小さい)断熱材の総称です。
一般的な断熱材の熱伝導率は、常温でおおよそ0.03~0.05W/(m·K)程度であるのに対し、高性能断熱材は0.019W/(m·K)と非常に低い熱伝導率を誇ります。これは静止空気の熱伝導率(約0.024W/(m·K))を下回る数値であることから、外部への熱損失の大幅な低減が期待できます。
断熱原理は高性能断熱材の種類によって異なりますが、基本的には熱の三要素である「伝導・対流・輻射」を制御することにあります。
材料内部の微細構造を高度に制御することで固体伝導や気体伝導を抑え、空気の流動を防ぐことで対流を低減。さらに、赤外線を反射・吸収する構造や添加物により、輻射による熱移動も効果的に遮断し、従来の断熱材では到達が難しかった「静止空気よりも低い熱伝導率」を実現しています。
特にマイクロポーラス断熱材などは、500℃~1,000℃を超える高温環境下でも優れた断熱性能を発揮することから、熱処理設備や工業炉などの分野で広く活用されています。
高性能断熱材の定義
その断熱材が「高性能断熱材」と評価されるかどうかは、「耐熱温度」「断熱性能」「環境負荷」「価格」という4つの要因を総合的に考慮して判断されます。それぞれの要因の基準については以下の通りです。
「耐熱温度」とは、断熱材が安全に使用できる最高温度のことを指します。断熱材の種類ごとにおおよその使用温度域が定められており、実際の選定では、炉や熱処理設備の常用温度や最高温度に対して、少し余裕を持たせた耐熱グレードの断熱材を選定します。
「断熱性能」とは、熱伝導率「W/(m•K)」で表される、熱移動をどれだけ抑えられるかという指標です。数値が低いほど断熱性能が高く、少ない厚みでも効率的な断熱が可能になります。
「環境負荷」とは、主に作業者の安全性や人体への影響の多寡を指します。断熱材の種類によっては、粉塵を吸入することで健康への影響が懸念されるものもあり、取り扱い時には適切な管理や対策が必要です。
「価格」とは断熱材そのものの材料コストのことです。一般に耐熱温度が高く、性能が優れるほど価格も高くなる傾向があるため、必要以上に高性能な材料を選ぶのではなく、使用条件に見合ったバランスの取れた選定が重要です。
代表的な工業用断熱材の特性
代表的な工業用断熱材の特性を以下にまとめましたので、ご確認ください。
| 断熱材の種類 | 耐熱温度(目安) | 断熱性能 | 環境負荷 | 価格 |
|---|---|---|---|---|
| セラミックファイバー(高温用断熱材) | 1,200~1,500℃ | 〇 | △ | ◎ |
| アルミナファイバー(高温用断熱材) | ~1,800℃ | 〇 | 〇 | △ |
| 生体溶解性ファイバー(高温用断熱材) | ~1,300℃ | 〇 | ◎ | ◎ |
| マイクロポーラス(高性能断熱材) | ~1,000℃ | ◎ | 〇 | △ |
なお、「高性能断熱材」という名称はあくまでカテゴリーを指す言葉です。実際には、その構造や仕組みによって、「マイクロポーラス断熱材」「真空断熱材」といった個別の名称で呼ばれることも少なくありません。
高性能断熱材の主な特徴
高性能断熱材の最大の特徴は、グラスウールやセラミックファイバーといった従来の断熱材に比べ、薄くても高い断熱性能を発揮できる点にあります。そのため、設置スペースが限られた場所や、よりシビアな温度管理が求められる環境で力を発揮します。
また、単なる熱の遮断に留まらず、熱エネルギーの移動を精密に制御できるため、微細な温度変化が品質に影響する高度な熱マネジメント環境においても重要な役割を果たします。
具体的な活用範囲は、高温の工業炉や配管、精密な温度管理が必要な半導体製造装置、用途に応じては極低温環境下で使用される輸送容器など、多岐にわたります。
高性能断熱材のメリット
高性能断熱材を導入するメリットは、断熱性能の向上だけではありません。エネルギー効率の改善からコスト削減、さらには作業環境の向上まで、多くのメリットをもたらします。
高性能断熱材の主な強みは以下の通りです。
- 低い熱伝導率を持つ
- 高温環境での使用が可能
- 耐久性・安定性が高い
- 軽量化と省エネルギーに貢献できる
- 湿気を出さない
高性能断熱材の特筆すべき強みは、数ある物質の中でもトップクラスに熱を伝えにくい点にあります。
従来の断熱材では、十分な断熱性能を確保するためにある程度の厚みが必要でしたが、高性能断熱材を用いることで、より薄い厚みでも同等、あるいはそれ以上の断熱効果を得ることが可能です。その結果、装置や設備の小型化が進み、限られたスペースを有効に活用できるというメリットがあります。
一方で、高性能断熱材は一般的な断熱材と比べると、初期コスト(導入コスト)が高くなる傾向があります。
しかし、優れた断熱性能によるエネルギー損失の低減や装置内部の温度分布の均一化、耐久性の高さによるメンテナンス頻度の削減を考慮すると、運用期間全体でのランニングコストは大幅に抑えられることも少なくありません。
このように、高性能断熱材は初期投資こそ必要になるものの、省エネルギー化や設備の長寿命化に貢献し、結果的にトータルコストの削減を実現できることから、多くの産業分野で採用が進んでいます。
なお、弊社宮原産業では、主に500℃〜1,000℃以上の高温領域に対応した熱処理設備・機器向けとして、マイクロポーラス断熱材をはじめ、各種高性能断熱材を取り扱っております。
用途や使用環境に最適な高性能断熱材の選定から、小ロットでの加工まで幅広く対応可能です。「高性能断熱材のメリットを最大限に活かすにはどうすれば良いか」などのご相談も、お気軽にお問い合わせください。
高性能断熱材の主な種類と特徴

高い断熱性能を持つ高性能断熱材には、一体どんな種類があるのでしょうか。ここからは、弊社宮原産業が取り扱う代表的な製品を中心に、それぞれの特徴を詳しく解説します。
マイクロポーラス断熱材
マイクロポーラス断熱材は、主原料である非晶質シリカ(二酸化ケイ素)などの微細な粒子を結合させた、微細多孔質構造を特徴とする高性能断熱材です。高性能微細孔断熱材とも呼ばれます。
マイクロポーラス断熱材の内部には、空気分子の自由な動きを物理的に制限するナノレベルの微細孔が張り巡らされています。この構造により対流や気体伝導が極限まで抑制され、理論上の限界とされる静止空気の熱伝導率をも下回る、極めて高い断熱性能が実現しました。
その結果、従来の断熱材では充分な性能を確保するために一定の厚みが必要だった箇所でも、マイクロポーラス断熱材であればごく薄い層で同等、あるいはそれ以上の断熱効果を得ることが可能です。
さらに、1,000℃前後の高温環境にも耐えうる優れた耐熱性を備えていることから、工業炉のバックアップ断熱材や高温配管、スペース制約の厳しい装置内部の断熱用途に広く採用されています。近年では、燃料電池や航空宇宙分野など、薄型化と省エネルギーを高い次元で両立したい先端分野でも活用が進んでいます。
なお、宮原産業では工業利用を目的としたマイクロポーラス断熱材だけでも、「WDS®︎」をはじめ常時3種類以上をラインナップしており、お客様の条件に応じた最適なご提案をさせていただきます。
一例として、マイクロポーラス断熱材の主な物性値(代表値)を以下にご紹介します。
| 熱伝導率(W/mK) | 0.019(室温) 0.021(平均温度200℃) 0.03(平均温度600℃) |
| 示色 | ボードタイプ:灰色 ボードタイプ(高温仕様):白色 フレックスタイプ:白色 ※その他、被覆の種類により被覆材の色 |
| 密度(g/㎤) | ボードタイプ:0.23 フレックスタイプ:0.3 |
| 耐熱温度(℃) | ボードタイプ:950℃ ボードタイプ(高温仕様):1,050℃ フレックスタイプ:1,100℃ |
| 収縮率(%) | 0.5(片側 1,000℃×12hr) |
| 圧縮強度(N/㎟) | 1.1 |
| 曲げ強度(N/㎟) | 0.16 |
※上記は代表値であり保証値ではありませんのでご注意ください。
真空断熱材
真空断熱材は、芯材を高度な気密性を持つ外装材で包み、内部を真空状態に保持することで、熱の伝わりを極限まで抑えた高性能断熱材です。
熱移動の三要素である「伝導」「対流」「輻射(放射)」のうち、空気による伝導および対流を真空環境によってほぼ完全に遮断できるため、現存する断熱材の中でも最高クラスの断熱性能を発揮します。
この優れた断熱性能により、特に常温から中温域において、ごく薄い厚みでも高精度な温度管理が可能です。限られたスペースで高い断熱性能が求められる用途や環境で採用されています。
例えば、冷蔵・冷凍機器、定温輸送容器、建築分野の高断熱パネルなど、薄型化と高断熱を両立したい常温〜中温用途を中心に幅広く活用されています。
一方で、内部の真空状態を維持する構造上、施工現場での裁断や加工ができず、外装材の破損が性能低下に直結するという特性があります。そのため、導入にあたっては事前に使用環境や寸法を十分に検討し、用途に合わせた精密な設計と取り扱いが欠かせません。
なお、宮原産業では単純なパネル状の真空断熱材から、複雑な加工を伴うものまで幅広く取り扱っております。
【補足】セラミックファイバーは高性能断熱材ではない?
セラミックファイバーやアルミナファイバーは、優れた耐熱性と実績から、現場によっては「高性能断熱材」として紹介されることも珍しくありません。実際、これらの材料は工業分野において長年にわたり使用されてきた信頼性の高い断熱材であり、高温環境下での熱対策には欠かせない存在です。
しかし宮原産業では、こうした一般的な高温用断熱材と区別し、さらに一段高い断熱性能、つまり極めて低い熱伝導率を備えた材料を「高性能断熱材」と定義しています。
これは、断熱材の性能を単に耐熱温度の高さだけで評価するのではなく、より厳しい省エネルギー要件やスペース制約に対応できるかどうかを重視しているためです。
具体的には、先述した「耐熱温度」「断熱性能」「環境負荷」「価格」という4つの要因を総合的に考慮したうえで、特に断熱性能において従来の常識を超える数値を示しているかどうかを重要な判断基準としています。
このように定義を明確に区別することで、「設置スペースが限られている」「さらなる省エネルギー化を図りたい」といった、よりシビアな課題を抱えるお客様に対しても、用途に即した最適な材料選定と付加価値の高いソリューションをご提案できると考えています。
高性能断熱材を選ぶ際のポイント

高性能断熱材の優れた能力を最大限に引き出し、コストパフォーマンスの高い熱対策を実現するためには、以下の2つのポイントが重要です。
高性能断熱材選びのポイント1:適切な厚みを決める
高性能断熱材を選定する際、最も注意すべきは「厚みを増やせば増やすほど、断熱性能が右肩上がりに向上し続けるわけではない」という点です。
意外かもしれませんが、断熱材はある一定の厚みを超えると、厚みを増しても全体の断熱性能の向上幅は緩やかになり、線形に比例しなくなります。つまり、必要以上に厚く設計しても、得られるメリットに対してコストだけが膨らんでしまう可能性があるのです。
高性能断熱材は一般的な材料に比べて高価であるからこそ、要求される目標温度に合わせた「必要最小限かつ十分な厚み」を正確に設計することが、価格面のデメリットを抑える鍵となります。
高性能断熱材選びのポイント2:使用環境や施工方法などの取り扱いを考慮する
高性能断熱材の優れた性能を長期間にわたって維持するためには、使用環境や施工方法を十分に考慮したうえで適切に取り扱うことが重要です。断熱性能が高い素材ほど、環境条件や施工の良し悪しが性能に直結しやすいため、事前の検討が欠かせません。
まず、使用環境への配慮が必要です。水気や湿気が多い場所では、断熱材が水分を含むことで性能が低下しやすく、特にマイクロポーラスは悪影響を受けやすい傾向があります。そのため、想定される環境に応じて撥水処理や防湿対策を施し、水分の影響を受けにくい構造や仕様にしておくことが大切です。
次に、施工時の取り扱いにも注意が必要です。高性能断熱材は繊細な構造を持つものが多く、強い衝撃や圧力が加わると破損する可能性があります。特に人の出入りがある場所や物理的な接触が想定される箇所では、耐熱クロスなどを用いた被覆処理を行い、表面の保護と強度の向上を図ることで、破損リスクを効果的に低減できます。
高性能断熱材を選ぶ際のよくある失敗
高性能断熱材は優れた断熱性能を持つ一方で、選定を誤ると「思ったほど効果が出ない」「コストだけがかさんでしまった」といった失敗に繋がることがあります。
導入時に特に注意したい代表的な失敗例として、以下の2点が挙げられます。
- 断熱性能は厚みに対して単純に比例するわけではない
- 厚みが増えるほど価格が高くなってしまう
どちらにも共通して言えるのは、断熱材の厚みの考え方を誤ってしまうことです。中でも、「断熱材の厚みを増やしすぎた結果、想定以上に費用が膨らんでしまう」という失敗は多く見られます。
高性能断熱材は、その高い付加価値ゆえに一般的な断熱材よりも価格が高く設定されています。そのため、「念のため」「余裕を持たせたい」といった理由で厚みを増やすほど導入コストが膨らみ、結果として想定よりも高額になってしまうのです。
断熱性能は厚みを増やせば無制限に向上するわけではありません。一定の厚み以上になると断熱効果の伸びは緩やかになり、費用対効果が低下していきます。
だからこそ、必要とされる断熱性能や使用温度、周囲環境を明確にしたうえで、「必要十分な厚み」に抑えた断熱設計が重要です。性能とコストのバランスを意識した材料選定こそが、高性能断熱材導入における失敗を防ぐ最大のポイントと言えるでしょう。
工業用断熱材の製造と加工を手掛ける宮原産業

私たち宮原産業は、工業用断熱材の製造・加工から電気炉の設計・製造まで、一貫して対応できる生産体制を整えております。
豊富な選定と提案の実績で、設備や機器の省エネを推進。特定メーカー品に限定せず、多様な素材から選定できるため、性能とコストのバランスを考えた柔軟なご提案が可能です。
さらに、試作や1点もの、小ロット製作にもスピーディーに対応できる機動力も強みです。「まずは試してみたい」「特殊仕様に応えてほしい」といったご要望にも柔軟にお応えいたします。
工業用断熱材や電気炉に関するお困りごとがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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